「何か面白い本を読みたい」
そう思って書店や通販サイトを眺めても、なかなか読みたい本が見つからないことがあります。
ランキング上位の本を選んでみても、評判ほど楽しめない。SNSで話題になっている本を買っても、途中で読むのをやめてしまう。おすすめされた作品を読んでも、どうもしっくりこない。
こうした経験が続くと、「自分は本を選ぶのが下手なのかもしれない」と感じてしまいます。
しかし、自分に合う本が見つからないのは、読書のセンスがないからではありません。単に、自分が本のどこを好きなのか、まだ言葉にできていないだけかもしれません。
次に読む本を見つけるときは、世間の評価から探すよりも、これまで好きだった本の共通点から探すほうが確実です。
この記事では、自分の読書の好みを整理し、そこから次に読む一冊を見つける方法を紹介します。
ランキングだけでは自分に合う本を見つけにくい
ベストセラーランキングや書店員のおすすめは、本を探すきっかけとして便利です。
ただし、そこで紹介されているのは、多くの人に読まれている本や、現在話題になっている本です。必ずしも、自分の好みに合う本とは限りません。
たとえば、同じミステリーでも、読者が求めているものはさまざまです。
複雑なトリックを楽しみたい人もいれば、登場人物の心理を読みたい人もいます。事件そのものより、静かな文章や不穏な雰囲気を味わいたい人もいるでしょう。
ジャンルが同じだからといって、同じように楽しめるわけではありません。
「ミステリーが好き」「海外文学が好き」「エッセイが好き」という分類だけでは、まだ範囲が広すぎます。
自分に合う本を探すには、ジャンルよりも一段深いところまで、自分の好みを分解してみる必要があります。
まずは好きだった本を3冊挙げてみる
最初に、これまで読んだなかで好きだった本を3冊ほど挙げてみましょう。
人生のベスト作品でなくても構いません。
最近読んで面白かった本、何年も記憶に残っている本、なぜか何度も思い出す本など、「ほかの本より少し気になる」という程度でも十分です。
ここで大切なのは、似た作品を選ぶことではありません。
小説、エッセイ、ノンフィクションなど、異なるジャンルが混ざっていても問題ありません。一見まったく違う本のなかに、自分でも気づいていなかった共通点が隠れていることがあります。
3冊選んだら、それぞれについて「どこが好きだったのか」を短く書き出します。
たとえば、次のような答えが考えられます。
- 文章が静かだった
- 説明しすぎないところがよかった
- 時間の順序がばらばらだった
- 登場人物が少なかった
- 日常のなかに少しだけ奇妙な出来事があった
- 結末がはっきりしていなかった
- 読み終わったあとも考えが残った
- 知らない土地の空気を感じられた
- 短い章に分かれていて読みやすかった
立派な書評を書く必要はありません。
「なんとなく暗い」「変な感じがした」「話はよくわからないけれど好きだった」といった曖昧な感想でも、十分な手がかりになります。
ストーリーではなく「読書中の感覚」を比べる
好きな本の共通点を探すとき、多くの人はストーリーや題材に注目します。
しかし、本の好みを左右するのは、何が書かれているかだけではありません。どのように書かれているかも重要です。
家族を描いた小説が好きなのではなく、複数の人物の証言が食い違う構成が好きなのかもしれません。
旅の物語が好きなのではなく、知らない土地を歩いているような感覚が好きなのかもしれません。
恋愛小説が好きなのではなく、人と人が最後まで完全には理解し合えない話が好きなのかもしれません。
次のような観点から、好きだった本を比べてみましょう。
文章
文章は簡潔だったか、装飾的だったか。会話が多かったか、地の文が多かったか。読みやすさが好きだったのか、それとも少し読みにくい文章をゆっくり味わうのが好きだったのか。
構成
物語は時間順に進んでいたか。短い断片に分かれていたか。手紙、日記、証言、新聞記事などが使われていたか。複数の人物の視点が入れ替わっていたか。
雰囲気
明るかったか、暗かったか。現実的だったか、幻想的だったか。温かさ、不穏さ、寂しさ、ユーモアなど、どのような空気が印象に残ったか。
登場人物との距離
登場人物の気持ちが詳しく説明されていたか。それとも、行動だけが描かれ、読者が気持ちを想像する作品だったか。
読後感
きれいに解決する話が好きなのか、疑問が残る話が好きなのか。感動したいのか、驚きたいのか、それとも長く考え続けたいのか。
こうして比べてみると、これまで「なんとなく好き」と感じていたものが、少しずつ言葉になります。
共通点はひとつに絞らなくていい
自分の好みを見つけようとすると、「私は○○な本が好きだ」と、ひとつの答えにまとめたくなります。
しかし、実際の読書の好みはもっと複雑です。
「短い章」「静かな文章」「少し奇妙」「説明しすぎない」といった複数の要素が組み合わさったときに、強く惹かれることもあります。
そのため、自分の好みをひとつのジャンル名に変換する必要はありません。
むしろ、次のような短い文章にしてみるのがおすすめです。
静かな文章で、日常に少しだけ奇妙なことが起こる小説が好き。
複数の証言を読みながら、読者が出来事を組み立てる作品が好き。
短い断片が積み重なり、最後まで全体像がはっきりしない本が好き。
登場人物の心理を説明せず、行動から想像させる小説が好き。
この文章が、自分のための「本を探す検索条件」になります。
書店や図書館で本を探すときも、単に「海外文学」や「ミステリー」の棚を見るのではなく、この条件に近い作品がないかを探せるようになります。
好きな作家だけでなく、翻訳者や出版社から探す
好きな本が見つかったら、まず同じ作家の別の作品を探すのが一般的です。
ただし、作家だけを追いかけていると、候補がすぐになくなってしまうことがあります。
そこで注目したいのが、翻訳者と出版社です。
海外文学の場合、翻訳者の名前をたどると、同じような雰囲気や文章を持つ作品に出会えることがあります。
もちろん、翻訳者が同じだからといって、作品の内容まで似ているわけではありません。それでも、その翻訳者がどのような作家や作品に関わっているのかを見ることで、自分の知らなかった本へ進む道ができます。
出版社やレーベルから探す方法もあります。
気に入った本を出している出版社の刊行一覧を眺めてみると、似た読者に向けて選ばれた本が見つかることがあります。
一冊の本を、ひとつの独立した作品として見るだけではなく、作家、翻訳者、出版社、シリーズといった周辺へ広げていくのがポイントです。
好みが近い読者の本棚をたどる
自分に合う本を探すうえで、ほかの読者の本棚も役立ちます。
ただし、評価の高い本を探すだけでは、ランキングを見るのとあまり変わりません。
注目したいのは、自分が好きな本を同じように評価している読者です。
自分が好きだった少し古い本や、あまり有名ではない本に感想を書いている人を見つけたら、その人がほかにどのような本を読んでいるか見てみましょう。
一冊だけでは好みが一致しているかわかりませんが、好きな本が2冊、3冊と重なっていれば、その人の本棚には自分に合う本が眠っている可能性があります。
長い書評をすべて読む必要はありません。
本棚に並んでいるタイトルを眺めたり、短い感想を読んだりするだけでも、「この本は知らなかった」という出会いが生まれます。
気になる本をすぐに買わない
自分に合いそうな本を見つけると、その場ですぐに買いたくなります。
しかし、気になる本をすべて購入していると、読まない本が増え、何を読みたかったのかもわからなくなってしまいます。
まずは「気になる本」として記録しておきましょう。
数日後や数週間後に見返して、それでも読みたいと思った本から選びます。
時間を置くことで、その場の話題性や表紙の印象だけで選んだ本と、本当に興味がある本を分けやすくなります。
また、気になる本を記録するときは、タイトルだけでなく、なぜ気になったのかを一言残しておくと便利です。
- 好きな作家が紹介していた
- 好きな本と同じ翻訳者
- 断片形式で書かれている
- 舞台になっている土地に興味がある
- 感想を読んで文章が好みに合いそうだった
後から見返したとき、読みたいと思った理由まで思い出せます。
ブクマで「自分の好みが見える本棚」を作る
好きな本の共通点や、これから読みたい本を整理したいときは、読書管理サービスのブクマを利用する方法もあります。
ブクマでは、気になる本を検索して自分の本棚に登録できます。また、「お気に入り」「気になる本」「小説」など、自分の目的に合わせたブックリストを作成し、感想や評価、メモを残すこともできます。ほかの読者の本棚から、新しい本や作家を見つけることもできます。
単に読んだ冊数を記録するだけではなく、次の一冊を探すための本棚として使うのがおすすめです。
たとえば、次のようなブックリストを作ってみましょう。
- 何度も読み返したい本
- 文章が好きな本
- 奇妙な小説
- 断片形式の本
- 説明しすぎない本
- 次に読みたい本
- 図書館で借りる本
- いつか読みたい長編
本を細かく分類しすぎる必要はありません。
まずは「好きだった本」と「気になる本」の二つだけでも十分です。
好きだった本に短い感想を残していくと、自分が繰り返し使っている言葉が見えてきます。
「静か」「不穏」「断片的」「読みやすい」「余韻がある」といった言葉が何度も登場するなら、それが自分の好みを示す手がかりです。
反対に、途中で読むのをやめた本についても、一言だけ理由を残しておくと役立ちます。
「登場人物が多すぎた」「説明が長かった」「展開が速すぎた」など、苦手な要素を知ることも、本選びの精度を高める方法のひとつです。
読書記録は、過去に読んだ本を保存するだけのものではありません。
これから読む本を見つけるための、自分専用の資料にもなります。
「おすすめの本」より「自分が好きな本」を知る
世の中には、おすすめの本を紹介する記事や動画がたくさんあります。
けれども、どれだけ多くの情報を集めても、自分が何を好きなのかわからなければ、次に読む本を決めるのは難しいままです。
まずは、これまで好きだった本を3冊選んでみてください。
そして、ストーリーだけではなく、文章、構成、雰囲気、登場人物との距離、読後感などを比べてみましょう。
好きな本の共通点が少しでも言葉になれば、本の探し方は変わります。
ランキングの上から順番に選ぶのではなく、作家から翻訳者へ、翻訳者から出版社へ、一冊の本から別の読者の本棚へと、自分の興味に沿って進めるようになります。
自分に合う本は、誰かが決めた「おすすめ本」のなかだけにあるとは限りません。
過去に好きだった本のすぐ隣に、まだ知らない次の一冊への入り口があります。

